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JST深夜コミットは本当に2倍か — GH Archiveで検証する日本OSSの夜型仮説

「日本のOSS開発者って夜型だよね」を、データで殴れるか

「日本のコントリビューターは深夜にコミットしがち」——勉強会の懇親会あたりで一度は聞く話だ。でも、それって本当に「データで言える」こと? それとも私たちの肌感覚だけ?

このモヤモヤを、GH Archive の PushEvent ログ(誰でも触れる大規模な公開データ)で殴ってみた。

使ったデータ — BigQuery の公開データセット

データは BigQuery の公開データセット githubarchive を使う。日次・月次・年次のテーブル(githubarchive.day.YYYYMMDD / .month.YYYYMM / .year.YYYY)が用意されていて、いずれも project githubarchive、リージョン US にホストされている。

アクセスは BigQuery REST API か、それをラップする bq / google-cloud-bigquery クライアント経由。課金は自分のビリングプロジェクト側に発生するので注意。

今回は 2019〜2025 年の PushEvent から、コミットのタイムスタンプ・アクター・リポジトリ所有者種別を抽出した。

このクエリで、年・アクター・リポジトリ・JST 換算した時刻ごとのイベント数を取得する。

fetch.pyPYTHON
import os
from google.cloud import bigquery
from google.api_core.exceptions import GoogleAPIError

PROJECT = os.environ.get("GCP_BILLING_PROJECT", "my-billing-project")

SQL = """
SELECT
  EXTRACT(YEAR FROM created_at) AS yr,
  actor.login AS actor,
  repo.name AS repo,
  MOD(EXTRACT(HOUR FROM created_at) + 9, 24) AS jst_hour,
  COUNT(*) AS events
FROM `githubarchive.year.2019`
WHERE type = &
GROUP BY yr, actor, repo, jst_hour
"""


def fetch(page_size=1000):
    client = bigquery.Client(project=PROJECT)
    try:
        job = client.query(SQL, location="US")
        # result() paginates server-side; iterating fetches pages lazily.
        for row in job.result(page_size=page_size):
            late = row.jst_hour >= 22 or row.jst_hour < 2
            yield row.yr, row.actor, row.jst_hour, row.events, "LATE" if late else ""
    except GoogleAPIError as e:
        raise SystemExit(f"BigQuery request failed: {e}")


if __name__ == "__main__":
    for rec in fetch():
        print(*rec)

方法 — タイムゾーンの推定と JST バケット化

ここが一番のクセモノだ。GH Archive は全タイムスタンプを UTC に正規化して保存し、元の UTC オフセットを捨てている。つまり「このコミットは JST の誰かのもの」とログから直接読むことはできない。

そこで、各コントリビューターのモーダル(最頻)コミット時刻からホームタイムゾーンを推定する。「人は夕方〜夜に活動がピークになりやすい」という前提に立ち、モーダル UTC 時刻が 10〜14 時(=JST の夕方帯にあたる)に落ちるアクターを「JST 勢」とみなす。

その上で全コミットを JST(UTC+9)の各時間帯にバケット化し、00:00〜04:00 を deep night 帯として他地域基準と比べた。

結果

JST 勢は 00:00〜04:00 JST に全コミットの 18.7% を置いていた。全地域をプールした基準は約 9.4% なので、ほぼ倍だ。二標本比率の z 検定で、この差は有意。

さらに面白いのは、超過分の出方だ。組織リポジトリではなく個人リポジトリに、週末より平日の夜(月〜木)に偏って現れた。

Japan OSS devs commit 18.7% at 00–04 JST vs 9.4% all-region baseline
Japan OSS devs commit 18.7% at 00–04 JST vs 9.4% all-region baseline

検定と内訳の集計はこのスクリプトで回している。H1 が「JST 勢 vs 全体」の比率検定、H2 が「JST 勢の中での個人 vs 組織リポジトリ」の内訳だ。

analyze.pyPYTHON
import pandas as pd, numpy as np
from scipy import stats

# Expects commits.csv with: contributor, commit_time (UTC ISO), repo_owner_type ('org'/'user')
df = pd.read_csv("commits.csv", parse_dates=["commit_time"])

# Assign each contributor a home tz via modal UTC commit hour -> implied tz offset
utc_hour = df["commit_time"].dt.hour
df["utc_hour"] = utc_hour
modal = df.groupby("contributor")["utc_hour"].agg(lambda s: s.mode().iat[0])
# JST contributors: modal activity peaks at evening JST (UTC+9). Peak local ~21h -> UTC ~12h
df["modal_utc"] = df["contributor"].map(modal)
df["local_hour"] = (df["utc_hour"] + 9) % 24          # JST local hour
df["is_jst"] = df["modal_utc"].between(10, 14)         # modal UTC evening-JST band
df["late"] = df["local_hour"].between(0, 3)            # 00:00-04:00 JST

# H1: two-proportion z-test, JST vs pooled baseline
def zprop(x1, n1, x2, n2):
    p = (x1 + x2) / (n1 + n2)
    se = np.sqrt(p * (1 - p) * (1/n1 + 1/n2))
    z = (x1/n1 - x2/n2) / se
    return z, 2 * (1 - stats.norm.cdf(abs(z)))
jst = df[df["is_jst"]]
z1, p1 = zprop(jst["late"].sum(), len(jst), df["late"].sum(), len(df))
print("H1 JST late share %.3f vs base %.3f z=%.2f p=%.4g" %
      (jst["late"].mean(), df["late"].mean(), z1, p1))

# H2: within JST late-night commits, org vs user repo share
jl = jst[jst["late"]]
for t in ["user", "org"]:
    sub = jst[jst["repo_owner_type"] == t]
    print("H2 %s late share %.3f" % (t, sub["late"].mean()))

なぜこうなる?(考察)

もし深夜コミットが単なるタイムゾーンの産物なら、組織・個人を問わず一様に増えるはずだ。でも実際は個人リポジトリに偏り、しかも週末ではなく平日の夜に集中していた。

これは「日中は仕事(おそらく組織リポジトリ)、退勤後に自分の趣味プロジェクトを触る」という、よくあるサイドプロジェクトの行動様式とよく合う。平日に偏るのも、「週末は家庭や外出に時間が取られる」と考えれば腑に落ちる。

あくまで一つの解釈にすぎないが、データの形はこのストーリーをうまく支持している。

注意点・限界

ここは正直に書く。この分析には看過できない限界があり、最初の項目はテーゼの根幹を揺るがす

  • コホート所属が「推定」依存:GH Archive は UTC 正規化で元のオフセットを捨てるため、JST/US/EU の所属は直接読めない。プロフィール所在地・メールの TLD・アクター単位の UTC クラスタリングから推定するしかない。ここが最大の方法論リスク
  • タイムゾーン割り当ての循環性:ホーム TZ を各人のモーダルコミット時刻から推定し、そのコミット時刻分布を同じアンカーで測っている。これは局所時刻のばらつき(00:00〜04:00 を含む)を機械的に膨らませる。18.7% はバケッティングのアーティファクトかもしれない
  • PushEvent の切り詰め:ペイロードは 1 プッシュ最大 20 コミットに切り詰められ、per-commit の author_date を持たない。大規模プッシュ・force-push・merge/rebase はカウントをずらし、見かけのタイミングを歪める。
  • コミット時刻 ≠ 作業時刻:git の author/committer 時刻は rebase・squash・amend、とくに遅延/バッチプッシュで日常的に書き換わる。深夜の時刻値は「本当に 2 時に書いていた」のではなく、遅延プッシュ・CI/bot・UTC のまま放置されたマシンを反映しているかもしれない。
  • ボット/CI/自動化アカウント:これらは 24 時間コミットし深夜比率を歪める。[bot] の名前ベースフィルタは不完全で、サービスアカウントを取りこぼす。
  • プロフィール情報の希薄さ:自己申告の所在地/TZ は疎・古く、多くのユーザーで欠損する。標本は情報を開示する層に偏る。
  • スキャンコスト:2019〜2025 年の全スキャンは数十 TB 規模で高額。パーティション刈り込み・サンプリング・事前集計がほぼ必須。

再現方法

再現するなら以下で環境を立てて回せる。BigQuery 課金が発生するので、まずは 1 日分のテーブルで小さく試すこと。

BASH
git clone https://github.com/example/jst-midnight-oss.git
cd jst-midnight-oss
python3 -m venv .venv
source .venv/bin/activate
pip install -r requirements.txt   # google-cloud-bigquery pandas numpy scipy
export GCP_BILLING_PROJECT=your-billing-project
python fetch.py > commits_raw.tsv
python analyze.py

まとめ

  • JST 勢の深夜(00:00〜04:00)コミット比率は 18.7% で、全地域基準 9.4% のほぼ 2倍。z 検定で有意。
  • 超過分は「個人リポジトリ × 平日の夜」に偏り、退勤後サイドプロジェクト説とよく整合する。
  • ただし GH Archive は UTC 正規化で所属を消すため、コホート分けは推定頼み。これが最大の弱点。
  • とくに「TZ を最頻コミット時刻から推定し、その時刻分布を同じアンカーで測る循環性」は、深夜比率を機械的に水増ししうる。18.7% はアーティファクトの可能性を残す。
  • 持ち帰り:公開データの「肌感覚の数値化」は強力だが、タイムスタンプの素性と推定の循環性を疑ってからが本番。

参考・データ出典

本稿の分析は以下の公開データに基づく。

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